禅は日常生活の中にある。

 

栗城 雨の音を聞きながらの座禅、素晴らしいですね。

川上 雨のときは、特にいいですよね。

座禅で「心を無にする」って、何も考えないことだと思ってしまいますが、実際、「心を無にする」ですることは、客観的に自分の感情や、周りで起こっていることを受けとめることなんですよね。外から音も聞こえてきますし、頭の中にはいろんなことが出てきます。そういうものを第三者の目線で観察する、ということなんです。
それが一番重要で、「あ、自分はお昼ご飯のことを考えだしたな、車の音するな」など思っても、また呼吸に再集中してもらう。そういう感じでいいんですよね。その繰り返しです。いろんな雑念が浮かんでくるのも座禅のうちだと思ってください。
 

石川 普通でいていいんですね。

川上 はい。禅や瞑想というと、特別な場所や時間にやるものというイメージがありますが、それは宗教家が作ったイメージ。本当は、日常生活の一部なんですよね。

石川 栗城さんは山に向かうに当たって、心の準備はされるんですか。

栗城 1カ月ぐらい前から、なるべくストレスをなくすことは心掛けますね。

石川 それはどうしてですか。

栗城 ストレスがあると全然登れなくなったり、普段の生活などが山にも影響します。同時に山を登っていて、またそれが生活に影響するのはあります。

石川 ああ、禅と似てるんですね。

 

勝ち負けではなく、道のりを味わう。

栗城 山登りが決して特別な世界じゃないなって僕は思っていて、それをどうやって地上のこの世界に取り込んで生きていくかというほうが、重要だなって感じます。

石川 登山家としては珍しいんですか。山での経験を日常生活にっていうのは。

栗城 記録として目指す人のほうが多いかもしれないですね。kawakami_zen

川上 日常生活にというのは道(どう)の考え方に非常に近い。たとえば空手では、空手協会が「オリンピック種目に入りたくない、競技になり、道でなくなる」というんですよね。金メダルのために争って、終わったらそこで引退という世界になる。つまり、道という考え方は、空手でやること自体が日常生活にも影響するという世界じゃないですか。栗城さんの登山も道ですね。登山道っていうと変だけど。

栗城 いや、本当ね、登山道を登りますから(笑)

石川 勝ち負けのスポーツをやるよりも、いわゆる武道をやったほうが、脳の発達に良いという説もあります。
『サイエンス』という雑誌の教育特集で、結局子どもの脳の発達には、競技性があるスポーツより、精神性を重視した武道のほうが良い、と書かれてました。

川上 実践主義は勝ち負けの世界で、目の前の良い悪いをどんどん選択して、より良いものにしていくという考え方ですが、それが壁にぶち当たったから、全ての物事が全部つながり合っているという考え方が注目されてきたんですね。今の起業家は、勝ち負けではなく、つながりを求める方向を目指しているのかなと。

栗城 なるほどね。
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石川 山を登るときも競技として登る人と、栗城さんみたいな登り方をされる人では、脳の発達が全然違う気がするんですよ。

栗城 僕が無酸素や単独などにこだわって登るのは、シンプルに山を感じたいんですよね。自然の中は良い所だけじゃなく、恐怖心もあり、それは自分の心が生み出しているものだと思いますが、それも全部感じながら行く。で、無心になる。
客観的に見る力という話を聞いたとき、ああ、なるほどなって思いました。山を感じながら登っていくことと禅の世界って、近いような気がしましたね。

石川 山を感じるって、どういうことなんですかね。

 

予測不能な状況で思い込みに固執しない。

栗城 山には予測不能なものがいっぱいありますね。山を通して、その瞬間瞬間の、自分の心の変化を感じているのかもしれない。山そのものよりは、山を通して、自分の気持ちの浮き沈みや、今これ行きたいな、行きたくないなと思ったり。

石川 あ、こんな自分がいるんだなってのを。

栗城 はい。登山は心の状態で結構左右されます。

石川 気持ちの浮き沈みにだまされないようにするんですか。

栗城 というより、気持ちが乗らないときは行かないですね(笑)。本当に。

石川 有名なバレーボール選手が言ってましたが、無理してる人は長く続かないそうです。 骨折しても頑張りました、みたいな人はだいたい早く引退し、長くやってる人は、自分の本当の気持ちに気付くのがすごくうまい。決して無理をせず、うまく手を抜いたりしてる人が長く活躍してるんだ、って言ってましたね。

栗城 登山は、苦しければ苦しいほどアドレナリンが出て頑張っちゃうところがあるんですよ。それ、結構危険で。
山の先輩が僕に言ってたのは、「山を見るんじゃなくて、自分を見ろ」ということなんです。どういうときに下山したらいいか聞いたら、「楽しくなかったら下山しろ」って言ったんですよ。楽しいとか、なんかわくわくする状態は、やっぱり重要なのかな。そう思えないときは、結構危険だと思います。

石川 ネガティブな感情で、やるぞ、絶対行くんだとか、そういう気持ちだと登りきれないんですかね。

栗城 楽観的な方がいいですね。うまくいかないほうが楽しいですよ、山登りは。なんで登山家ってあえて厳しいとこ行くかというと、自分でコントロールできると思ってるものをやっても感動はあんまりなくて。やっぱりそうじゃないところに行って達成したときのほうが、喜びの振り幅が大きいと思うんですよね。

石川 陸上のアスリートが言ってましたが、日本が強いスポーツは、フィギュアスケートや体操など、練習と本番で同じ動きをするやつだそうです。状況が刻々と変化するサッカーなどは、結構苦手みたいですね。

栗城 確かに。日本の教育はまさにそうですよね。

石川 山へ行くとそういう対応力って強くなりそうですね。

栗城 はい。予測不可能なことばかりですからね。